町のレコード屋

本厚木での取材前、駅の近くのCDショップに立ち寄ることにした。
地元出身のバンド、「いきものがかり」をインディーズ時代から応援していた店だという。それが、ネット通販やダウンロード販売の時流には勝てず、今月いっぱいで閉店すると新聞記事で知った。

いきものがかりがデビュー前に路上ライブをしていた小田急本厚木駅から歩いて数分。1964年に開店した「タハラ」は楽器も販売し、音楽を志す地元の若者が集まる場でもあった」(朝日新聞夕刊、1月18日付)

町の音楽、文化をサポートし、牽引してきた店だったのだろう。その姿を一目、見ておきたいと思った。

店は、商店街の一角にあった。
中に入ると、いきものがかりのアルバムが並び、彼らの曲が流れていた。壁には彼らのポスターや書き込み、ファンの綴ったメッセージカードが何十枚、何百枚と貼られていた。

だが、店の棚は、隙間が目立つ。1階の邦楽コーナーも、地階の洋楽コーナーも。閉店を目前に控えているのが感じられる。

「閉店のお知らせ」の張り紙を見ると、「1964年10月に開店」。
ちょうど自分の生まれた頃に、この店も産声を上げたことになる。ひとり勝手に縁を感じた。

思えば、こういうCDショップ、いや、レコード屋はかつてどの町にもあったのだ。子どもの頃、ちょっと緊張しながら、背伸びして、店に入ったことも思い出す。

店の棚を一巡し、数少なくなった在庫から、以前から聴きたかった大島保克さんのアルバムを手に取り、レジへ。

店員さんは、CDを丁寧に袋に入れてくれた。
「ありがとうございます」
よそ者の自分が言えるのは、この一言だけだろう。
敬意とエール、餞別の気持ちを込めて、店員さんに僕はそう返した。